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運動再開に向けて:ディトレーニング

運動再開に向けて:ディトレーニング

こんにちは。トレーナーの斉藤、山下です。

サッカーヨーロッパ主要リーグであるブンデスリーガの今月5月17日からリーグ戦再開のニュースが出てきました。メディア等では感染拡大もちろんのことコンディション面についても心配されている声が多かったような気がします。

実際にこちらの報道によると、ブンデスリーガ再開初日の6試合で8名の選手が負傷し、中にはウォーミングアップ中に負傷してしまった選手もいるそうです。

全く準備をしていなかったのか?

当然、そうではありません。自粛中に世界中のアスリートが自主的にトレーニングに励んでいる様子は、SNSなどを通じてみられました。

また、私たちの周りでもオンライン指導や各個人でのランニングなどのトレーニングに励んでることだと思います。

しかし、このような活動再開後すぐの負傷者の増加は、フィットネスの不適応が起きていることは間違いないでしょう。

これらのことから活動再開〜試合までのプロセスに対して、慎重になる必要があります。

そのためにも、運動の休止がどのくらい身体に影響を及ぼしているのか、どのようにして運動を再開していけば良いのかを知っておく必要があると思います。

今回のテーマは、”ディトレーニング(detraining)”です。

ディトレーニング(detraining)とは

ディトレーニングとはトレーニングの減少や休止という意味だけでなく、それによってそれまでのトレーニングによって獲得した解剖学的、生理的及びパフォーマンスの適応の部分的または全体的な損失と定義されています(1)。

怪我をしたり、長期休暇などにより、身体を動かせない状態が続いたときに身体に起こる変化です。

主観的ではありますが、高校生のときテスト週間後などにが身体が思うように動かないといった経験を誰しもがあるのではないでしょうか。

ディトレーニングにより、主に心肺機能の低下などにおける持久力への影響、筋力サイズの変化・筋力低下などにおける筋機能への影響が見られます。

また、打つ・蹴る・投げるなどといった技術的な面にも影響をもたらすことは当然のことでしょう。

持久力への影響

ディトレーニングは、持久系パフォーマンスに大きな影響を及ぼすことが考えられています。

持久系パフォーマンスに貢献する要素3つは以下の通りです。

①最大酸素摂取量(VO2max)
②有酸素系エネルギー代謝 
③移動のエネルギー効率

この3つ中で①最大酸素摂取量(VO2max) ②有酸素系エネルギー代謝において大きな影響が与えられると考えられています。

①最大酸素摂取量(VO2max)

4週間以内のディトレーニングにより、4〜14%低下すると報告されて、一回拍出量の低下により、最大心拍数の増加をもたらし、結果的に最大心拍出量の低下が影響していると考えられる。

これは、VO2maxの低下は、中枢系の不適応が原因と考えられるでしょう。

また、長期的なディトレーニングの影響は、末梢系の不適応(動静脈酸素較差の低下)も起きてくると報告されています。

全身持久力の指標で用いられるVO2maxの低下は、長距離走競技選手に限らず、多くのスポーツ選手に影響を及ぼすでしょう。

②有酸素系エネルギー代謝

有酸素系エネルギー代謝は時に必要なエネルギー源:ATPを酸素を用いて大量に産出させることを可能にしています。

 主に、・呼吸交換比の上昇 ・乳酸閾値の低下 ・筋グリコーゲンの低下 が挙げられます。

筋グリコーゲンの低下は1週間で20%の減少が見られた。

また、筋グリコーゲンの減少は有酸素性エネルギー代謝だけでなく、解糖系の持久力にも影響してくるでしょう。

筋機能への影響

ディトレーニングにより、筋のサイズの変化・筋力低下が見られます。

●筋サイズ

ディトレーニングによる筋のサイズの変化は初期(10日間〜12日間)に大きく、速筋線維の萎縮が報告されている。これは、長距離競技者には見られなく、パワーリフターやサッカー選手に見られた変化であった。

また、競技会には参加しないが日常的にトレーニングを行なっている鍛錬者に対して24週間の筋力トレーニングと12週間のディトレーニングを実施した研究では24週間の筋力トレーニングによって速筋線維の横断面積は1日あたり0.17%(週あたり1.19%)の増加に対して、その後のディトレーニングでは1日あたり0.19%(週あたり1.33%)低下したことを報告した。(2)

筋力トレーニングとその後のディトレーニングの減少率の関係を観察してみた所、両者には相関があり、速筋線維は肥大しやすい一方で萎縮もしやすい。逆に遅筋線維は、肥大しにくく一方で萎縮もしにくい、ということでした。

●筋力低下

4週間の運動休止により、3〜14%減少したと報告されている

筋力トレーニングで増加した最大筋力がディトレーニングにより低下することはよく知られています。

興味深いことに、ディトレーニングに期間と最大筋力の関係には負の相関関係があり、60日以内のディトレーニングでは1日あたり0.34%低下であり、筋力トレーニングによる増加量(1日あたり0.39%)との間に差は見られなかった。(3)

活動休止から活動再開へ

ディトレーニングにより低下した身体機能をどのように回復していくかが今後の重要になってくることは間違いありません。

ここで、6週間の筋力トレーニング後に3週間ディトレーニングを行い、その後に再度6週間のトレーニングを行い、筋力と筋サイズに対するリトレーニングに対する効果を検討した研究では、

ディトレーニングを挟んだ2回目の筋力トレーニングによる筋サイズの増加率はには全く差がなかったと報告されている。

つまり、リトレーニング時には初めてトレーニングを行なったときの効果以上の変化は起こらないと考えられます。

また、シーズン後の2週間のディトレーニングによって低下した持久系のパフォーマンスはディトレーニング前の数値に戻るまでに2~3週間の高強度のトレーニングを有したとする報告があります。(4)

ディトレーニングについての研究は、2回目のディトレーニング後の変化について述べさせていただきました。今回の運動休止とはシチュエーションが異なりますが、トレーニングの現場でよく聞く”マッスルメモリー”を利用したプログラム作りに対して注意を払うために述べさせていただきました。

次にディトレーニングによる外傷・障害リスクと要因、推奨される予防トレーニングプロトコルについて取り上げたいと思います。

また、労作性の傷害(心疾患、熱中症)については鴇田君による「運動再開に向けて:突然死、熱中症のリスクと予防」での記事に譲りたいと思います。

外傷・障害リスクと要因

まずはじめに、NSCAのガイドラインでは外傷・障害について以下の通りに記載されています。

非接触性傷害の事故は、過去 10 年間に大きく増加した。特に、不活動期間(学期中または学期間の休暇:1 ~ 2 月と 7 ~ 8 月)を終えてトレーニングに復帰したばかりの学生アスリートにおいて、そのコンディショニングレベルがおそらく低下している時に有意に増加している。

重篤なスポーツ傷害の全米調査研究センター(NCCSIR:NationalCenter for Catastrophic Sport InjuryResearch)によると、非接触性傷害の危険性は、不活動期間後に、アスリートの体力レベルの低下に応じて運動量および/または回復対策が調整されないと有意に高まる。

文献(5)p.15より抜粋

そして非接触性傷害のおおよそ 60%が、アスリートが不活動期間後にトレーニングに復帰する移行期間で起こるとしています。

このような非接触性傷害の増加は、過剰な運動量に曝露されること、さらにトレーニングの負荷がアスリートにとって適切な速度よりも早く増加することで引き起こされるとNSCAでは示唆しています。

また、活動制限によって外傷・障害リスクを引き起こす要因について、ガイドラインでは以下のように記されています(6)。

○アスリートは特に労作性(運動性)の傷害を受傷しやすくなる

○可動性と柔軟性が減少し、遅発性筋痛(DOMS)の可能性が高まる

先に述べた各種身体機能の低下はもちろんのこと、他にも体組成などの構造的変化によってリスク要因を引き起こしている可能性が考えられます。

ディトレーニングによる体組成の変化として、除脂肪体重の減少と体脂肪の増加が挙げられます(7,8)。

また他にもディトレーニングによりアキレス腱の構造や機能的変化がもたらされている可能性は示唆されており(9)、実際にNFLでロックアウトが発生した2011年ではアキレス腱の損傷が増加した報告されています(10)。

※2011年NFLで発生したロックアウトについて

スポーツや個人における自粛期間中の活動量など違いはそれぞれあるかと思うので一括にはできませんが、体組成の変化が結果として機能低下を引き起こしていることは否定できません。

またこの年のNFLでは、ロックアウトにより過去の怪我や手術によるリハビリテーションが十分に行われず、機能回復が得られないまま再受傷するといったリスクを高めたのではないかという議論がなされました。

結果としてどのような影響があったかというデータは現時点では確認できていませんが、活動制限前に怪我を負っていた選手については、この自粛期間中に十分な評価やリハビリを行えていない可能性は考えられます。

こうした事実から、活動を再開する上でトレーニングの内容や負荷、選手一人一人への身体評価についてはしっかり考慮される必要があると言えます。

図1: 2011年NFLでロックダウンが発生した際アキレス腱断裂の発生傾向の違い増加(文献より引用)

推奨される予防トレーニングプロトコル

こうした外傷・障害のリスク要因を減らすためNSCAのガイドラインでは、トレーニングプロトコルは以下の通り組み合わせることを推奨しています(5)。

表1: 文献(5)より抜粋・筆者改変

○50/30/20/10ルール
 ⇒トレーニング再開後、最初の週は通常のトレーニング量の半分、その後週毎に30、20、10%減らし最終的に通常のトレーニング量に戻していく。

○運動:休息比
 ⇒特に心肺機能低下による傷害を防ぐためのもので、1週目は運動:休息の比率を1:4とし、二週目は1:3に設定する。

○FITルール
 ⇒ウェイトトレーニングのためのルールで、頻度、強度相対量、および休息時間が重度の筋損傷の可能性を最小限に抑えるためのもの。

強度相対量(IRV)=セット数×レップ数×% 1 RM(少数)
※特定の筋群ないし運動の種類に対して11 ~ 30までのIRVが推奨されている。

加えて競技活動のための身体準備と傷害リスクの低減を図るために

① 様々な動作パターンを取り入れた10-20分の動的ウォーミングアップを積極的に行う

② 疲労困憊まで身体を追い込まない

③ 週2-3回までのトレーニング

といったポイントも押さえておく必要があります。

このプロトコルを見ていると、心情としては悠長なことをせず、動ける実感が出てきたらできるだけ早く通常のトレーニングに戻りたくなるかと思います。

実際にガイドラインでは負荷を低下させた2週間の移行期間は、アスリートが不活動によって失われた筋力や代謝能力を回復するには十分な期間であるとされています。

またガイドラインの中では事前にトレーニングされている場合のシナリオも想定されているので、自粛中完璧に管理された状態だったのであればこの限りではないと思います。

ただし学生の場合、特に4月から新入生となるアスリートにとっては、受験などの関係で他学年の学生より不活動期間が長くなっていると思います。

そのような学生にとっては不慮の事故を防ぐという意味でも特に慎重に進める必要があり、そもそも身体が完成していないことや、新たな学業スケジュールに対応しなければならないという側面からも、このような基準は遵守されるべきであると思います。

参考までに、このように段階的に負荷を上げていく一つの根拠として、急性/慢性の運動量比率という存在があります。

これは適切なトレーニングの量の設定として、急性/慢性の運動量比率を0.8-1.3(下記緑色のグラフ)に設定し、トレーニング量をモニタリングすることで怪我のリスクを防ぐというものです(11)。

図2: 文献(11)より抜粋

このグラフは直近1週間(急性)と過去3-6週間(慢性)の平均トレーニング量を比率として算出し、双方のトレーニング量を組み合わせて怪我との関係をモデル化したものです。

このグラフが表しているのは、比率が0.8-1.3で収まっている状態だと、急性期のトレーニング負荷が低く(=アスリートの「疲労」が最小限に抑えられている)、慢性期のトレーニング負荷が高い(=アスリートの「フィットネス」が発達している)ので、アスリートは十分に準備されていると考えられます。

逆に比率が高すぎる状態では、急性期のトレーニング負荷が高く(=トレーニング負荷が急速に増加し「疲労」している)、慢性期のトレーニング負荷が低い(=不十分なトレーニングで「フィットネス」が出来上がっていない)と言うことになり、アスリートは疲労が蓄積されやすい状態になります。

つまり、継続した高強度トレーニングに慣れている=身体が適応できている状況にある場合は怪我があまり増えず、反対に低強度のトレーニングに慣れてしまっているアスリートは怪我が多くなるということです。

もちろんすべてのスポーツに当てはまるわけではありませんが、今回のような状況では暑熱順化や感染予防の観点からも、トレーニング量をしっかりと管理するための手段として取り入れることを検討する余地はあると思います。

こうした事実を念頭に置き、いきなり疲労困憊となるまで身体を追い込むことなく段階的に強度を引き上げ、かつ感染予防対策を施し安全にトレーニングを再開されなければなりません。

まとめ:現場における推奨例

最後に現場での推奨例として欧州サッカー界から発表された、新型コロナウイルス収束後からトレーニング復帰までに知っておくべき医学的提言を、今までのまとめとして翻訳・抜粋したものをご紹介したいと思います。

こちらの提言は感染予防と運動生理学の両方の観点からまとめられており、かつ簡素であることから、選手を始めスポーツに携わる関係者であれば原文を読まれることをおすすめします。

また実施する上での前提条件として、

①医療及び衛生基準は必ず尊守しなければならないこと。

②COVID-19の感染状況は各国でまちまちであり、その国の状況に合わせて調整されなければならないこと。

③活動による負荷の変動が怪我のリスクと関連しているため、負荷の急激な変動を避けるためにも、各プレーヤーに合わせたトレーニングと試合のスケジュールを編成することに注意を払うこと。

この3点を常に念頭に置いておく必要があります。またこの推奨例は欧州サッカーのトップチームのスタッフによる考案のものなので、プロが活動を再開する為の譲歩案であることも知っておくべきでしょう。

以上を踏まえた上で今後スポーツ活動を再開する為の、トレーニングプロトコルを作成する際の一例として参考していただければと思います。

表2: 文献(12)より一部抜粋

伝えたいこと

ディトレーニングの影響について、数字を用いて説明しました。

今までとは違う工夫が必要になっていますが、非接触での怪我の原因はトレーニングそのもではなく、プログラムの内容に問題があることがわかっています。

怪我や事故を防ぐためにも推奨されているプロトコルを参考にし、トレーニングプランを計画することが今後の活動再開において重要なことだと思います。

いかにスマートに、そしてハードにトレーニングを行えるか。

トレーニングを再開される前に管理する側も、される側もぜひ一緒に考えてみてください。

ご覧いただいている皆様には、安全に怪我なくトレーニングが再開できることを願っています。

参考文献:

1.Mujika, I., and Padilla, S. (2000). Detraining: Loss of training induced physiological and performance adaptation. Part I. Short term insufficient training stimulus. Sports Medicine 30, 79–87

2.Häkkinen K, Alén M, Komi PV in Isometric Force- And Relaxation-Time, Electromyographic and Muscle Fibre Characteristics of Human Skeletal Muscle During Strength Training and Detraining.Acta physiology Scand 125:573-585.1985.

3. 小笠原理紀,安部孝筋力. トレーニングにおけるディトレーニングとリトレーニングの効果.Strength Conditioning Journal..2010,vol.17,no.5,p.2-9.

4.Joo, C.H. (2018). The effects of short term detraining and retraining on physical fitness in elite soccer players. PLoS ONE 13

5.Caterisano A, Decker CD, Snyder C Ben, Feigenbaum M, Glass R, House P, et al. 不活動後の移行期にトレーニングに安全 に復帰するためのCSCCとNSCAの合同総合ガイドライン. Journal of Strength and Conditioning Reasearch. 2020;13–37.

6.National Strength and Conditioning Association. COVID-19トレーニングへの復帰 アスリートのための安全なトレーニング再開に関するNSCAガイドライン. Natl Strength Cond Assoc [Internet]. 2020; Available from: NSCA.com/COVID-19-return-to-training

7.Ormsbee, M. J., & Arciero, P. J. (2012). Detraining increases body fat and weight and decrease VO2max and metabolic rate. Jourmal of Strength and Conditioning Research26(8), 2087–2095.

8.Lo, M. S., Lin, L. L. C., Yao, W.-J., & Ma, M.-C. (2011). Training and Detraining Effects of the Resistance vs. Endurance Program on Body Composition, Body Size, and Physical Performance in Young Men. Journal of Strength and Conditioning Research25(8), 2246–2254. 

9.Frizziero, A., Salamanna, F., Della Bella, E., Vittadini, F., Gasparre, G., Aldini, N. N., … Fini, M. (2016). The role of detraining in tendon mechanobiology. Frontiers in Aging Neuroscience8:43.

10.Myer, G. D., Faigenbaum, A. D., Cherny, C. E., Heidt, R. S., & Hewett, T. E. (2011). Did the NFL lockout expose the achilles heel of competitive sports. Journal of Orthopaedic and Sports Physical Therapy41(10), 702–705.

11.Gabbett, T. J. (2016). The training-injury prevention paradox: should athletes be training smarter and harder? British Journal of Sports Medicine50, 273–280.

12.Eirale, C., Corsini, A., & Baudot, C. (2020). Medical recommendations for home-confined footballers’ training during the COVID-19 pandemic. Biology of Sport37(2), 203–207.